【SDGs169のターゲット】9-2. 雇用およびGDPに占める産業セクターの割合の大幅な増加

SDGsでは、17のゴールの各々に紐づけられる169のターゲットを定めています。今回は、「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」に付随する8つのターゲットのうち、「9-2. 包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国の状況に応じて雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。」について見ていきましょう。

産業化=industrialization(インダストリゼーション)とは?

ターゲット9-2で使われている「産業化」という言葉は、“industrialization(インダストリゼーション)”の日本語訳です。この“industrialization(インダストリゼーション) ”の意味を掴むには、私たち人類の歴史を振り返る必要があります。

古来より「自分たちが暮らし創り上げている社会や文化が、どのように生まれ、どのように変わってきたのか」というテーマは、様々な学者の分析対象でした。現在のところ、私たち人類の社会は「狩猟採集社会」、「農耕牧畜・農業社会」、「工業社会」を経て、「情報社会」に至ると考えられています。「狩猟採集社会」とは、簡単な道具を使用して動物を狩り、植物を集めて暮らす小規模な社会のことです。「農耕牧畜・農業社会」は、道具を用いて植物や動物を育てて食料を確保する社会で、狩猟採集社会よりも大きい人口を養うことができます。「工業社会」とは、エネルギー源を動力とする機械を用いて、「農耕牧畜・農業社会」よりも更に多くの人口を養う社会です。産業革命以降からインターネットが普及する前までの、一昔前の現代的な暮らしといえます。一般に、“industrialization(インダストリゼーション) ”とは工業社会化することを指します。

ちなみに、現在の日本国内のように、サービス業や情報産業の占める割合の高い社会が「情報社会」といえます。また、内閣府はこの一連の考え方を踏まえて、“Society 5.0”を提唱しています。“Society 5.0”とは、IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)、ロボットや自動走行車などの技術で情報社会の「次」の社会を目指す政策です。

持続可能な産業化とは?

現在の先進国が一足先に成し遂げてきた「工業社会」においては、各国が自分たちの安全を守るために経済力や軍事力を競い合いました。その結果として、現代の暮らしの基盤となる数多くの革新的な技術が発展した半面、人体や有害な影響を及ぼす公害が問題となりました。また、科学技術が発展する前までは「自然」とは私たちの暮らしを脅かすものであり、克服するべきもの、無尽蔵なものと考えられていましたが、実際には有限であり、共生しなければ人類は生きていけないことが分かりました。現在、自然修復力では追いつけないほどの負荷が地球にかかっており、深刻な問題が数多く起きています。たとえば、地球温暖化、生態系破壊などの環境問題は、日本国内の都市で暮らしていると目には見えませんが、長い時間をかけてゆっくりと進行しています。

仮に、先進国よりもずっと数の多い途上国がこれまでの先進国と同様の工業化・産業化を目指した場合、環境負荷はどんどん高くなってしまいます。そこで、これまで先進国が成し遂げてきた工業化・産業化は持続不可能なものだったという反省から提唱されている概念が「持続可能な産業化」です。今後、工業化・産業化が見込まれる新興国と、既に工業化・産業化した先進国の両方が環境に配慮し、私たちの子孫が生きることのできる社会を守ろうという取組みです。

環境問題と貧困問題の解決に並行して取り組む必要性

とはいえ、どんなに先進国のエリートが「持続可能な産業化」を一生懸命に唱えたとしても、新興国の貧しい方々が望んでいることは、環境負荷よりもまずは安定した安全な暮らしであり、豊かになることでしょう。貧富の格差問題や貧困問題を解決しなければ、新興国において行われるアマゾンの違法な森林伐採や環境負荷の高い農業などはなくなりません。

貧困問題を解決するためには経済発展が重要であり、経済発展のカギとなるのが「産業化」です。経済学には「ペティ・クラークの法則」と呼ばれる法則があります。これは、経済発展により中心となる産業が第一次産業から第二次産業、第二次産業から第三次産業へと変わるという法則のことで、この変遷を「産業構造の高度化」といいます。ターゲット9-2.は、このペティ・クラークの法則に基づき産業構造の高度化により貧困問題を解決し、同時に環境問題も解決しようとしている目標と考えられます。

最後に、新興国における環境負荷の高い経済行為は、実質的に先進国の暮らしを支えているケースも少なくありません。これを踏まえると、先進国で暮らす私たちが、大量消費のライフスタイルを見直し、一連の経済活動の在り方全体を変えることが必要不可欠といえます。