【SDGs169のターゲット】10-2. すべての人々の能力強化等の促進

SDGsでは、17のゴールの各々に紐づけられる169のターゲットを定めています。今回は、「10. 人や国の不平等をなくそう」に付随する10個のターゲットのうち、「10-2. 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。」について見ていきましょう。
自己責任論とインクルージョン(Inclusion・包含)とは
「自己責任論」とは、何らかの結果の原因が当人にあるという考え方です。日本では昔から自己責任論と自助努力を結びつける風潮が少なからずあります。たとえば、アルバイトや派遣などの労働問題に加えて、子育てや離婚などの家庭の問題、うつ病や自殺などの精神的病の問題が議論される際にも、「自己責任論」はしばしば登場します。もちろん、個別具体的には、そう言わざるを得ないケースもあるでしょう。しかしながら、その一方で、そうとは言い切れないケースも多数あります。
何らかの問題や失敗を、当人の努力不足や怠慢、意思に帰する「自己責任論」は、すべての人が平等に選択肢を与えられていることを前提とした主張です。しかし、社会的に弱い立場にある方々は、残念ながら一定以上の選択肢があるとは言い難いケースが少なくありません。
このような、言語、人種、家庭環境、身体や精神の疾患などの様々な要因により、選択肢が与えられていない状態やプロセスを、「社会的排除(Social exclusion)」と呼びます。私たちの社会には住まい、教育、保健、就労など多様なサービスや制度があります。「社会的排除(Social exclusion)」は、こうした領域から意図せずはみ出してしまった方やはみ出さざるを得なかった方は、自ら出て行ったのではなく、社会が排除しているという考え方に基づいています。この考え方に基づいて、生きづらさを抱える方々を減らし、誰もが認め合うことのできる社会を目指す理念や動きを「インクルージョン(Inclusion)」と呼びます。これは、「ソーシャル・インクルージョン(Social Inclusion)」と呼ばれることもあります。なお、日本語では「包摂」と訳されています。
「インクルージョン(Inclusion)」の思想は、グローバリゼーション(Globalization)の進展により生まれました。1970年代以降、情報通信技術や移動手段の発達により、世界中でグローバリゼーション(Globalization)と呼ばれる国境を越えた経済活動や人々の往来が活発になりました。その結果として、多くの国や地域に経済成長がもたらされた一方、経済格差の拡大が世界的な社会課題となりました。とくに欧米諸国では、1980年代以降、貧困層や移民の方々が、預金や保険、融資などの金融サービスにアクセスしたくてもアクセスできない環境に置かれてしまっていることから、「インクルージョン(Inclusion)」が求められるようになりました。
差別と区別の違い
私たちが暮らす社会には、残念ながら見えない壁がいくつかあります。この見えない壁は、年齢、性別、障碍、人種、民族、出自、宗教、経済的地位など様々な「違い」から見つけることができます。「違い」には、偏見や差別が潜んでいることも珍しくありません。
偏見や差別は、「違い」に基づいて、一定の決めつけ、レッテル貼りをすることで生まれます。たとえば、「女性は出産・育児で早期退職するから採用しない」、「アジア人に近づくと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかる」、「イスラム教信徒はテロリストだ」などといった見方は、人種、国籍、性別など属性で一括りにした差別であり、相手をよく知らない・分からない状態だからこそ至る発想です。一方で、「大量出血などの身体的危険を伴う妊娠や出産に対して休暇を与える」、「食品に豚肉を使用していないことを明記する」といった取組みは、相手の状況をよく知り、分かっているからこその合理的な配慮であるため、差別ではなく「区別」と呼ばれます。
ターゲット10-2は「差別」をなくし、「区別」により誰もが暮らしやすい社会を目指すこと、一人ひとりの個性を認め、多様な生き方を各人が自分で選択できる社会の実現を目指しています。