【SDGs169のターゲット】10-1.所得下位層の所得成長率の向上と持続

SDGsでは、17のゴールの各々に紐づけられる169のターゲットを定めています。今回は、「10. 人や国の不平等をなくそう」の10個のターゲットのうち、「10-1. 2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。」について見ていきましょう。
経済成長と格差についての議論
「経済成長は貧困層に恩恵をもたらすか」は長らく議論されてきた命題です。1980年代までは、道路や上下水道、発電所などの大規模なインフラ整備が経済成長をもたらし、貧困削減にもつながると考えられていました。これは、「富める者がさらに富めば、貧しい者も自然と豊かになる」というトリクル・ダウン仮説が機能するという考え方です。
しかし、1990年代に入ると、「高い経済成長率が貧困削減に結び付いているとは必ずしもいえない」といったトリクル・ダウン仮説に対する反論が数多く出され、議論を呼ぶようになりました。これにより、所得再分配をもたらす社会福祉制度の在り方を模索する流れが形成されています。
その後、90ヵ国以上の家計を約40年間にわたって比較調査した結果、「国民全体の平均所得が増加すれば、貧困層の所得も増加する」ことが明らかとなったことで、近年では、両派を包括的に融合した「貧困削減効果を伴う経済成長(Pro-Poor Growth)」が模索されています。
最新の研究では、経済成長により貧困削減を達成した国、経済成長しても貧困削減につながらなかった国を比較調査した結果、経済成長により生じた「格差」が貧困削減の成否をわける原因となっていることが指摘されています。また、この格差がさらなる経済成長や貧困削減の可能性を損なっていることも明らかになりました。
所得下位40%の所得成長率
コロナ・ショック以前から、世界の富の半分程度を1%の富裕層が所有していることが問題として度々指摘されていました。しかし、富裕層と最貧困層の格差だけが問題ではありません。OECDによると、各国において下位40%の所得層の相対的衰退が経済成長を阻害する要因です。OECD諸国においては、1990年代半ば以降に創出された雇用のうち半分以上が非正規雇用やパートタイム労働であり、こうした労働者の増加が下位40%の所得層の相対的衰退、格差の拡大の要因となりました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響により飲食業や観光業などの接客や移動の必要な業界が不況に陥り世界中でリストラや早期退職が増加するなか、下位40%の所得層の暮らしは益々厳しくなると考えられています。貧困削減の取り組みだけでなく、より幅広な低所得者層へのアプローチが、世界的に喫緊の課題として目先求められることです。